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W.スタインバーグの「ツァラトゥストラはかく語りき」 |
「ツァラトゥストラはかく語りき」にちょっと開眼(戻る)
「ツァラトゥストラはかく語りき」はあまり好きな曲ではないのですけど、このレコードでちょっと開眼したみたいです。 全曲に一本きちんとしたスジが通っているみたいです。 その場限りの威勢良さ、効果狙いのようなもので継ぎ接ぎにされたような感じがしません。 充分に機能的で巧い演奏ですし、またオケの響きには程好い艶っぽさが感じられます。 これは名門ボストン交響楽団の味わいなのでしょうね。 とにかく機能的な面、官能的な面、そのいずれにもウィリアム・スタインバーグらしい節度が感じられ、一気に最後まで聴かせてくれます。 決して世評は高くありませんが(というかほとんど無視されているようですけれど(注))、なかなかの名演ではないかと思います。
ところで R.シュトラウスとの出会いは、セル/クリーヴランドによる「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」「ドン・ファン」「死と変容」」のレコード。 非常に機能的な演奏で、速いテンポでバッサバッサと切り込んでゆくような演奏ですね。 しかしこの演奏で自分の中での R.シュトラウスに対するイメージが固まってしまった感があります。 つまり R.シュトラウスってバリバリに機能的に演奏しなくちゃならん、みたいな感じですね。
特に「ツァラトゥストラはかく語りき」は映画『2001年宇宙の旅』で冒頭が使用され、それがあまりにも有名になったこともあって、ここ以外は聴くべき部分は無いようにも考えてました。 最近になってようやく R.シュトラウスが後期ロマン派の作曲家であって、そのロマン的な部分にも耳を傾けないとアカンっていうことに気付いたしだいです(遅すぎですね、お恥ずかしい)。さてこの演奏、1971年 3月24日ボストン・シンフォニー・ホールでの録音とクレジットされています。 ウィリアム・スタイバーグがボストン交響楽団の音楽監督をやっていた時期が1969年〜1972年ですから、任期を終えるちょっと手前でしょう。 両者の息がよく合っているのでしょうね。 荒唐無稽とも言ってよいニーチェの著作をテーマにしたこの音楽を、実に手堅くオーソドックスに纏めています。 しかも鈍重さはまったく感じませんし、かといって強引さも感じません。 オーケストラの自主性が巧みに引き出されているような感じです。 これがウィリアム・スタインバーグの手腕、なせる技なのかもしれません。 何度聴いても最後までまったく飽きのこない「ツァラトゥストラはかく語りき」というのは、これまでにちょっとない経験です。
また録音が良いのも魅力的です。 レコードの帯に「凄じい音響の洪水 − 最新録音」と書かれているとおり、導入部のトランペットが入る前、パイプオルガンの響きのドロドロ・・・っていう地響きが迫ってくる感じもよく捕らえられています。 また「舞踏の歌」でのシルヴァースタインのヴァイオリンも美しく、木管楽器のアンサンブルもまた優しい響きで収められているのも魅力的です。
とにかく、このレコードを手にしてから、カラヤン/BPO(1973)、VPO(1960?)、メータ/LAPO(1969)によるレコードも引っ張り出してみたり、ちょっとした「ツァラトゥストラはかく語りき」マイブーム状態です。
(注) 林さんのコメント