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甲南大学文化会交響楽団 第43回定期演奏会

柔らかな響きを基調にした熱く充実した音楽戻る


甲南大学文化会交響楽団 第43回定期演奏会
2003年12月27日(土) 19:00 神戸国際会館こくさいホール

サン=サーンス: 歌劇「サムソンとデリラ」よりバッカナール(*)
ドリーブ: バレエ組曲「シルヴィア」
チャイコフスキー: 交響曲第5番ホ短調

指揮:田久保 裕一、佐藤 敦(*:学生指揮)


1年ぶりの田久保さんの指揮による演奏会を聴きたくて神戸の三ノ宮まで出かけました。 そしてこれが今年の最後の演奏会になるのですが、見事な演奏でこの1年を締め括ることができて満足しました。
田久保さんの指揮は常に力の入った熱っぽいものだったのですが、オーケストラへの指示は無理を感じさせない自然なものでした。 これによってオケ・メンバーは持てる力以上のものがすっと導き出されたのではないでしょうか。 チャイコフスキーの交響曲第5番など、よくありがちな気合が入りすぎた演奏ではなく、充分すぎるほど熱っぽいのに余裕すら感じさせる大熱演でした。 またドリーブのシルヴィアでは、バレエを見たことはないのだけれど、バレエの情景をも感じさせる素適な演奏でした。 ぐいぐいと曲の中に惹き込まれてゆきました。
オーケストラは常に柔らかい響きを基調にしていて、刺激的な響きが抑えられた充実した演奏で見事に指揮に応えていました。 とにかく全員が一丸となった自然な曲運びがとても素晴らしかったですね。 そしてそんな熱さだけでなく、演奏に上品さをも感じたのは田久保さんの資質でしょう。 素晴らしい演奏を堪能させていただきました。
終演後、田久保さんもオケ・メンバーもとても満足そうな笑顔が印象的で、随所に田久保さんの演奏にかける情熱と素適なお人柄を感じさせた演奏会でした。


さて簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

自宅から神戸の三ノ宮まで、ちょっとした遠足気分、といきたいところなんですけどね、開演が19時。 この季節、自宅を出るころから陽が陰り始めるので、なんかちょっと寂しい感じがします。 それでも1年ぶりの田久保さんの指揮による演奏会、元気を頂けるかな、と期待してホールに向いました。 
神戸国際会館こくさいホールは始めて行くホールです。 三ノ宮に到着するころはもう暗くなってましたし、始めて行くのホールなので不安な気持ちが隠し切れず、ちょっと焦り気味に足を進めていました。 だいたいこの辺りと目星を付けたところにちゃんと国際会館があって、見上げると「こくさいホール」と書いてました。 やれやれとエスカレータを上がったのですが、なんと長蛇の列・・・並んでいる人の数はそんなに多くないように思うのですが、受付には一人しかいなくてなかなか列が進みません。 でもまぁここまでくるともう落ちつくしかないですね。 20分近く並んだと思いますけど、10分前にホールに入ることができました。 でもホールに入ってもまたエスカレータで上に昇るのにけっこう時間がかかって、おまけにトイレを探して用足しをしてたので、席についたら5分前のアナウンス。 なんとかセーフでした。 ちなみに席は27列14番、後ろから6列目で中央よりもやや左寄りってところですね。

プログラムを読んでいて、ふっと顔をあげたらオケ・メンバーが全員揃って静かに待っているので驚きました。 すっと出てきたのかな、物音が聞こえなかったんですよね。 さて、コンミスが出て来てチューニングしたあと、学生指揮者の佐藤さんが登場。 会場の正面左右に小さくお辞儀をして演奏開始です。
1曲目はサン=サーンスのバッカナール。 この曲、エキゾチックな旋律と軽快な旋律が出てくる魅惑的な曲なんですが、曲をとても巧く纏めあげていたのが印象的でした。 よく統率されて誠実な演奏でした。 冒頭のオーボエのソロ、よかったですねぇ〜。 もうちょっとエロティックな感じが出てもいいのでしょうが、そこは学生さんですからね、そんなとこまで望むのは酷というものでしょう。 ホルンの持続音からソロとなったあたりも見事で、掴みはバッチリといった感じ。 曲は躍動的な部分となって、ヴァイオリンの響きの線がちょっと細かったのだけど艶が感じられたのも素適でした。 これらの旋律が統率されて出てくる誠実な演奏となって展開されてゆきました。 端正な感じも受けたんですが、これはきっちりと曲を消化しているからでしょうね。 そしてフィナーレでのティムパニの連打を感動的に折り込んでからバシッと揃えたエンディングも見事でした。 学生指揮とはいえ見事な統率力で曲を纏め上げていました。

いったんオケ・メンバー全員が引き揚げたあと、メンバーが一部チェンジして再度登場。 チューニングのあと、田久保さんがにこやかに出て来られて2曲目ドリーブのシルヴィアが始まりました。
このバレエ曲、きちんと全部聴いた記憶がありませんし、もちろんバレエも見たことがないのでハッキリしたことが言えないのですが、まるでバレエの情景を見ているかのような感覚を味わいました。 柔らかい響きを基調にしていて、盛り上がる場面でもその柔らかさを保持したまま強く響かせているようでした。 躍動感、メリハリがあるのですが、それがとても自然に出ている感じのする素適な演奏に魅せられていました。
第1曲目「前奏曲」は、柔らかく豊かな響きによる開始でした。 前曲よりも音の強さが2割ほど勝っているような感じがして、その分オケの表現力も増しているのに驚きました。 ホルンの響きのあと繊細なヴァイオリン響きにもメリハリがあります。 なんとなく開幕を思わせる旋律やら、躍動感を伴った流れるような旋律など、バレエの情景を感じさせる音楽に身を委ねていました。
第2曲目「間奏曲とゆるやかなワルツ」は、チャーミングなヴァイオリンによる開始のあと、木管楽器がまろやかな響きで素適でしたね。 全体的に柔らかい響きで、弦のアンサンブルやその裏で吹くホルン、木管も同じ音色で統一されていました。 素適ですね。 最後は柔らかいピチカートが2つ、それぞれ響きの質をきちんと変えていました。
第3曲目「ピチカート」では田久保さんは指揮棒を離し、まろやかで柔らかなピチカートの響きに満たされていました。 あとフルートの響きも素適でしたね。 エンディングは力強くまとめました。
第4曲目「バッカスの行進」は金管ファンファーレがカッコ良く決まり、メリハリのついた行進曲といった感じ。 力が入っても重く響くようで刺激的になったりうるさく感じることがありません。 オケは本当によく田久保さんに付いていたようです。 フィナーレ、悠揚とした音楽には熱気を孕んで盛り上げたあと加速、高らかに歌いあげて曲を締めくくりました。 巧い。 見事な幕切れでしたね。 たっぷりと音楽を楽しませてもらった充実した演奏に大きな拍手を贈りました。

20分間の休憩を挟み、いよいよメインのチャイコフスキーの交響曲第5番。 アマオケではよくかかる曲です。 何より盛り上がりますものね。 だから個人的には演奏効果としてウケ易い曲という印象があるのですが、今回の演奏はそんなありがちなものではありませんでした。 熱気を充分に孕んでいる演奏なんですけれど、力で押しまくってそれがカラ回りすることなどなく、どこか余裕すら感じさせる見事な演奏でした。 これは特に弦楽アンサンブルが充実していたことによるものと僕は思っています。 とにかく大熱演だったのですが、その熱さだけでなく上品さをも感じさせたのは田久保さんの資質によるところでしょう。 とにかく素晴らしい演奏を堪能させてもらって1年を締めくくることが出来ました。
第1楽章、暗澹としたクラリネットの旋律から序奏部分、とても見事でした。 そしてこの序奏の部分、田久保さんは棒を持っていたのですが、手のひらでオケに表情をつけ、そして時には大きくえぐるような身体全体のアクションを繰り出してオケをドライヴしていました。 中低弦のリズムに導かれた主部に入ると、これらをやや行進曲調にして最初のクライマックス。 大きくうねるような感じでした。 ヴァイオリンによる第2主題のあと、金管の咆哮によって劇的に盛り上げたあと、田久保さんはヴァイオリンに大きくうねるような煽りを入れます。 これに応えたメンバーも上体を大きく動かし、渾身の力を込めた演奏となっていました。 弦楽器が主体となった熱い音楽は安定感があって見事でした。 こんなにも熱い田久保さんを見たのは始めてじゃないかな。 とにかくオケが見事にこれに応えていたのが印象的でした。
第2楽章、田久保は棒をおいてアンダンテ・カンタービレを始めました。 ちょっと柔厚な感じのする序奏のあとホルンによる主題呈示、寂寥感が漂い哀愁を感じました。 オーボエが現れるとちょっと明るさが差すのですが、音楽は常に弦楽器が全体を支えている感じですね。 しっとりとした中にも熱気を感じるのは、田久保さんの指揮もさることながらオケ・メンバーの気合が強く感じられるせいかもしれません。 音楽が次第に力を得て頂点に達しますが、このときのトランペットによるフレーズはちょっと短めだったかしら。 中低弦による弾むピチカートにのせてヴァイオリンが憂愁の響きで旋律を歌いました。 一気に盛り上がったあとスパっと切り捨て、深い響きのクラリネットの音色が魅力的でした。
第3楽章、田久保さんが棒を持ってヴァイオリンに向ってワルツを始めました。 ちょっとゆったりめだったかしら。 深い響きのピチカート、弦の響きの合間から聞こえてくる木管、ちょっとしっとりとしたかん時のワルツが続きました。 フィナーレはちょっとメリハリを付け、ちょっと大きく纏めてような感じでした。
終楽章は、ゆったりとした感じで響きを深めにとった威厳ある開始。 ぐっと盛り上がったときのトアンペットの響きがややクレッシェンドかけて抑揚つけていたでしょうか。 でも低弦が重量感を持っていて弦楽器優位は変わりません。 ティムパニの強烈な連打がタイトでカッコ良くてぐんと盛り上がりますが、このあとも暴走せずに落ちついて余裕を感じさせます。 押すばかりではなく、抑揚をつけた見事に統率された音楽でした。 高らかなトランペットに、タイトなティムパニによる偽終始。 この後、もうちょっと粘って旋律を歌わせて欲しい気もしましたが、ストレートな演奏でケレン味なくコーダに突入し一気に盛り上げたあとバシッと決めたエンディングに、会場は大きな拍手に包まれました。 全員が一丸となった自然な曲運びがとても素晴らしかったですね。 そして熱さだけでなく上品さを感じたのは田久保さんの資質でしょう。 素晴らしい演奏を堪能させていただきました。

カーテンコールでは、田久保さんもオケ・メンバーの皆さんもとても満足そうな笑顔が印象的でした。 
田久保さんは、頂いた花束を第2楽章でソロをとったホルンの女性にプレゼント。 その後も、4本の指を立てて4回生のみを起立させるなど、粋なはからいをされたあとコンサート・ミストレスをエスコートして退場。 演奏会はお開きとなりました。 
随所に田久保さんの情熱と素適なお人柄を感じさせた演奏会に満足して、今年のコンサート通いを締めくくることができました。